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2010年3月29日 (月)

万華鏡 ⑤

 キャミソール風のトップスにミニのプリーツスカート、ファー付きのGジャン、ローヒールのブーツに身を包んだ美少女が夕刻の雑踏の狭間で人待ち顔で立っていた。装飾品といえば幅の狭いカチューシャだけなのに、やたら輝いて見えるのは、見た目にも美しい容姿と、無意識のうちに発する彼女自身の「気」のせいだろう。横を通り過ぎる誰もが彼女の方を一度二度と振り返った。もちろん声をかける者も少なくはなく、大手の芸能プロダクションや、いかにもいかがわしげな雑誌のスカウトマン達が立て続けに声をかけていた。うっとうしそうに無視する少女に彼らは名前の書かれた白い紙をにぎらせ、別の女性にも同じように声をかけていた。
「時給一万円、いや、君なら二万円出すからバイトしない?」
 と誘う黒服の男もいた。しかし、彼らはいづれも連絡先の書かれた紙をにぎらせるせいか、引き際は意外とあっさりしていた。やっかいなのは不良、チンピラの類だった。
「彼女〜一人?何してるのぉ〜俺らと遊ばなぁ〜い?」
 と数人のチンピラが声をかけてきた。腐った魚のような濁った目をした彼らは、明らかに何か体に良くないことをやっていそうな輩達だった。
「彼氏待ってんの?俺らがいいトコ連れてってあげるよぉ〜」
 と少し舌をもつれさせながら、舐めるような目つきで少女の体を睨めまわし、いやらしい笑みを浮かべた。
 しつこく言い寄る連中に、無視し続けていたが、次第に嫌気がさし、男の一人に腕をつかまれたのをきっかけに、少女の右腕がピクリと動いた。
ドカッ!
 少女の腕をつかんだ男がま横に吹っ飛んだ。パンチの飛んできた方を見ると、これまた不良っぽい、しかしどことなく濁った目の奴らとは違うちょっと爽やかそうな、なかなかな美青年がいた。
「おめぇ〜らいい加減にしろよな。こんな幼気な女の子にまで手ぇだして」
「あんだとぉ〜!」
 言いがかりをつけられたとばかりに、濁り目の連中は割って入った青年に睨みをきかせ、胸ぐらをつかむと殴りかかった。たちまち乱闘が始まり、殴り、殴られ、5対1だったにもかかわらず、数分後には好青年が勝利を収めていた。
「くそっ、おぼえてろよ!」
 足をもつれさせながら、負け組はとっととその場を退散した。
「ひぇ〜、よく見たらすっげー美人じゃん!あんた、そんなんでこの辺ふらついてたら、またあいつらみたいなのにからまれるぜ。ここにはああゆう奴らが山ほどいるからな。悪いことは言わねぇ、早くお家に帰んな」
 服のほこりを払いながら、青年は、補導員のように少女に言った。

「つ、蕾!こんな所にいたのかい、随分捜したのだよ!」
 と、そこへあちこちを随分探し回ったのか、息の荒い東雲が駆け寄ってきた。「なに?あんたこの娘の彼氏?何かひ弱で頼りなさそうだなぁ。ほらほら、また変な奴らにからまれないように、しっかり捕まえとかなきゃだめだぜ!」
 そう言いながら、青年は蕾の腕をとり、東雲の腕に絡めた。
「そうそう、それでOK」
 自己満足の笑みを浮かべてうなずいた。
「おーい透、行くぞー!」                                                                                       少し離れたところで彼の立ち会いを見ていた仲間が名前を呼んだ。
「おう、今行くぜ!じゃぁな、気ィつけろよ」
 透は蕾の肩をポンポンと叩いた。

「ありがとう」
 小さな呟きではあったが、普段でない言葉が、いともすんなり飛び出した。東雲は驚いて思わず蕾の顔を見た。蕾自信も驚いているようだった。去っていく男の背を見送りながら、蕾はクスッと小さく笑った。が、東雲はおもしろくない。自分に対しては絶対にあり得ないあの台詞と笑顔を、どこの誰ともわからない、しかも下界の男に投げかけたのだから。
「つ、蕾・・・」
 その声にハッとなり、未だ自分が東雲と腕を組んでいたことに気付いた蕾は、慌てて腕をふりほどいた。「し、東雲、なぜお前がここにいる!?」
 当然だと感じながらも、それを悟られないように少し驚いたように蕾は言った。
「君が下界に降りたと聞いて、慌てて飛んできたのだよ。はぁ、随分捜したよ、特にこの辺の大気はくすんでいるから君の花気をたどるのに少し苦労したよ。それにしても、なんだってあんな場所に立っていたんだね。」
 蕾が立っていた場所とは、繁華街のど真ん中、24時間絶えることなく、不特定多数の人々が往来する一角だった。
「あそこにいるとカモが金をしょってやって来るのだ」
 蕾は少々自慢げに言った。
「はぁ?」
「下界では金がないとどうにもならんのだ。さっきも数人の男どもが酒を飲ませてくれるというのでついていった。さんざん地層になったので帰ろうとしたら、妙なところへ連れ込もうとしたのでボコボコにしてやった。当分は出歩けぬだろう」
 フフン、と腕を組みながらズルそうに笑って見せた。
「なんてこと・・・!君って子は・・・」
 片手で頭を抱え、呆れ顔の東雲は深いため息をついた。
「あのね、蕾。君は・・・」
 東雲の小言が始まろうとしたので、蕾は聞く耳持たぬ、とばかりに歩き出した。
「だけどなんだって急に下界へなど来たのだね。一週間後には聖矛授与の儀が控えているというのに」
 小言は天界へ戻ってからでも、と思った東雲は蕾が下界へ降りた理由を確かめようとした。
「うるさい!お前には関係ない!」
 が、何がかんに障ったのか、蕾はものすごい剣幕で東雲を怒鳴りつけた。
「ねえ、蕾・・・君は一体何に腹を立てているんだい?」
 何も言わなくても、やはり東雲にはわかるらしかった。
「別に!」
「いいから、言ってごらん。何か力になれるかもしれないだろう?」
「話しても、お前には無理だ」
「どうして?言ってみなきゃわからないじゃないか」

   東雲は足早に歩く蕾の前へ出ると、両肩を押さえ、止めさせた。いつものことながら、東雲の表情は心配混じりの真剣そのものだった。

「・・・露珈が・・・現れないんだ・・・」
 そんな東雲の顔を見ると、いつもながら黙り通すことができなくなり、しかしそんな眼差しを正視できず、蕾は少し目線をそらし、呟いた。
「露珈?聖剣のことかい?」
「ああ・・・。私が次期御大花将に決まったからといっても、聖剣がなければ真の御大花将とはいえない。聖剣を手にして初めて御大花将となるのだから。しかし私の手には・・・」
 蕾は両の手を悔しそうに堅く握りしめた。
「蕾・・・」
 蕾のために、自分ができることならどんなことでもしてあげたかった。しかしこればかりはどうすることもできなかった。そんな東雲の心情を知ってか、蕾は再び歩き始めた。
 歩道橋の階段を昇りはじめたとき、何やら違和感を感じた蕾が振り返った。
「東雲、なぜそんなにくっついて歩く」
「え?」
「歩きにくいではないか、もっと離れて歩け」
 隙間を空けず、ぴったりと背後について歩く東雲に、蕾は眉間にしわを寄せ、言った。
「だめだよ」
 東雲は頬を染めて、ちょっと困ったように言った。「なぜだ」
「なぜって、・・・見えるでしょ、他の人に」
「はぁ?なにがだ」
「ぱんつが」
 真剣に言う東雲の顔面に、ブーツの底がめり込んだ。
「これで見えまい!」
「はひ・・・」
 その時だった。不穏な気配と何者かが助けを求める波長を感じた蕾は、ハッと振り向いた。

To Be continued

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コメント

後半の東雲さんと蕾の絡みが好きです~heart04

頬染めて「だめだよ」と何を禁じたかと思ったら、「なぜって、・・・見えるでしょ、他の人に」 って、も~~!!(//□//) 東雲さんの過保護&独占欲っぷりに、カンパイ(//_//;;shine

しかしそこは下界に落ちてもハイパー皇女様な蕾(笑) 容赦なく東雲さんの顔面に蹴りを入れて、「天界一の乱暴者」の期待を裏切りませんね(笑)

原作の下界落ちは蕾の無法っぷりが原因だったけど、皇女な蕾は自己の中の葛藤が下界落ちの原因なんですね。なかなか面白い対比だと思います。

投稿: 歩 | 2010年3月31日 (水) 16時08分

歩さん、いつも感想ありがとうございます。
そう言えば当時、蕾の靴がローヒールだからよかったけど、ハイヒールだったら大変だったろうね、みたいな話、してましたよね。めり込むどころか突き刺さって・・・(笑)

ハイパー・・・(笑)蕾は皇子よりも皇女の方がある意味、積極的で行動力があるかもしれません。東雲さんに対してもある程度気持ちをぶつけたり、求めたりしますからね。あと、泣くし。

この話のあとは殆ど求め、求められる「えいち」な話ばっかりだわ(///)載せるのはやっぱまずいですよね?( ̄◆ ̄;)

投稿: かりん | 2010年4月 2日 (金) 08時59分

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