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2010年3月30日 (火)

万華鏡 ⑥

「東雲、お前はここにいろ!」
「つ、蕾!?」
 そう言い残し蕾は昇りかけた歩道橋を降りると、人目のつかない路地に入り、一気に空を駆け上った。

 初秋の黄昏時、そこには幾本かの木蓮の木があった。辺りには尋常ではない妖しの気が満ちており、数本の木蓮が立ち枯れていた。

「助けて・・・!」
  それは次の花季を迎えるまで眠りについているはずの木蓮の花精の声だった。

「何者だ!姿を現せ!!」                                                                                木蓮に害を成す何者かに、蕾は大声を張り上げた。すると一本の木陰から、一匹の怪魔が姿を現した。背中が大きく曲がり、小さな顔には異様なまでの大きな目、耳まで裂けた口からは短いが鋭利な牙がびっしりと並び、その間から爬虫類のような長く細い舌をひょろひょろと出しては、時折自分の目玉をなめている。肌は鱗のようにひび割れ、ほぼ、四つん這い状態の怪魔は、意識を失っている木蓮の花精を自分の方に引きずり寄せると、蕾に向かいニタリと笑い、その首に噛みついた。
「ひっ・・・!」
 断末魔の悲鳴とともに、花精は蕾の目の前で散ってしまった。
「花精!?」
 自分の目の前で花精を手にかけられた蕾は、体中の血が一気に煮えたぎるのを感じた。
「きさま、許さん!!」
「へへへ、木に咲く花は実にうまい。木の生命力と花の花芯、両方を味わえるからのぉ。小娘、お前も花の化だな。その花気からすると素晴らしく上等な花芯を持っているようだのぉ。これで木の生命力を持ち合わせていれば最高の獲物になるものを」
 怪魔は蕾を値踏みするように眺めると、口の端からしたたり落ちる唾液をズルズルと舌でなめ取った。
 堅く握った拳を振るわせ、今にも飛びかからんとした時だった。
「蕾!」
 怪魔との間に舞い降りたのは東雲であった。
「東雲!来るなと言っただろう!」
「君こそ、私との約束はどうするつもりだね!」
 東雲は蕾に歩み寄た。

「うっ・・・ま、まだ何もやっておらん!」
「やってからでは遅いのだよ!だいたい君は・・・」 いつもの言い合いが始まりそうになった時、怪魔の声が二人を黙らせた。
「ほう、これはこれはなんという生命力の持ち主!さては天界の樹仙か。ということは小娘は天界の花仙だな。なるほど、地上のものとは格が違うはずだ。しかし極上の獲物が揃ったものだ。この二つを同時に食べればさぞや精が付くことだろう。ああ、うまそうじゃ。その白くて柔らかそうな肉にこの牙を突き立てたいのぉ」
 怪魔は蕾を見てニタリと笑った。
「やめろ!虫ずが走る!!」
 あまりの嫌悪感に蕾は叫んだ。
「ではまず小娘から・・・」
 言うと、怪魔の舌がゴムのように伸び、蕾の体をグルグルとからめとった。
「!?」
 シュウシュウと音を立てて、からまった舌から花気が吸い取られていくのを感じた。
「おお、なんと芳しい花気だ、未だかつて味わったことのない最高級の花気じゃ!」
 怪魔の表情は恍惚のあまり震えていた。それを見た蕾はカッとなり、からまる舌を振りほどこうとしたが、粘着性のあるそれからは簡単には逃れられなかった。
「蕾!!」
「来るな!」
 徐々に花気を吸い取られながらも、蕾は左の手のひらに気を集中させ、「名」を呼んだ。
「露珈・・・!」
 それは御大花将のみが手にすることを許される聖剣の名であった。しかし聖剣は蕾のもとに現れることはなかった。
「くっ・・・」
 やはりダメか、と半ばあきらめた蕾は花炎を持ってして怪魔の束縛を断ち切った。怪魔はダメージを負ったものの、吸い取った蕾の豊かな花気のおかげで、ちぎれた先からすぐさま新しい肉片を再生していた。
「小娘の分際でわしの束縛を逃れるとは!」
 幾ばくかの花気を吸い取られ、消耗した蕾は片膝を地に着いた。
「その美しい顔が歪むのを見ながら、やわらかなその肉をゆっくりとむさぼろうと思うたが、これは一気に食いちぎった方が良さそうだのぅ」
 怪魔の舌が鋼のように変化した。とたんに矢を射たように蕾に向かって放たれた。
「蕾!!」
 とっさに東雲が蕾の前に身を乗り出した。
「ばか、東雲!」
 それを見た蕾は、東雲の背中を引き寄せると正面に体を踊らせ、覆い被さるように東雲を全身でかばっていた。
「あうっ・・・!」
 硬質の舌は蕾の背中から腹部を貫いた。
「蕾!!」
 蕾は東雲の体にのしかかるように倒れ込んだ。
「蕾!蕾!しっかりしておくれ!ああ、私はなんてことを・・・!私のせいで蕾が・・・あぁ蕾・・・蕾!」
 崩れそうになる蕾の体を必死に支えながら、東雲は半狂乱で叫んだ。
「な、情けない顔をするな、これくらいの傷、私なら・・・だい・・じょうぶだ・・・」
 蕾はかすかに笑って見せた。しかし蕾の腹部からはダラダラと芳しくも赤い血が止めどなく流れ出た。
 ドクドクと異様な動きを見せる舌は、どうやら蕾の血液を吸い取っているようだった。
「蕾ぃ!」
「はっ・・あぁっ・・・!」
 直後、蕾の体から無造作に引き抜かれた硬質の舌は、再び軟化し、今度は東雲の体をからめとった。
「あっ!?」
 蕾の体は東雲の手を放れ、どさりと力無く地に倒れ伏した。
「なんと素晴らしい獲物達だ!若さも生命力もみなぎってくるぞ!」
 東雲の体から精気を吸い取る怪魔の目は爛々と輝いていた。
「あぁ・・・くぅ・・・」 両手の自由を奪われ怪魔の為すがまま精気を奪われ続ける東雲の姿が、薄れゆく意識の中、蕾の目に映った。
「し・・・しのの・・め・・・」
 こうしている間にも東雲の体は精気を吸い取られ、弱っていった。
『私は一体何をしているのだ・・・花精を護れず、東雲も護れず、これで御大花将になどなれるものか・・・!』
 体の力が抜け、東雲はその場に両膝をつき、ガクリと座り込んだ。
「東雲・・・!」
 苦しそうな東雲の表情は蕾の胸を強く締め付けた。『東雲・・・!私の東雲!!こんなにも強く誰かを護りたいと思ったことが今までにあっただろうか。確かに私は、私の愛するものを護りたかった。だけどそれ以上に私は東雲を・・・東雲だけは失いたくない!他の何を失おうと、東雲だけは失いたくない!!』
 自分勝手だ、と思いながらも、もう蕾は自分の気持ちを曲げることはできなかった。
 蕾は傷口を強く押さえると、立ち上がろうとした。「頼む、私に愛するひとを護る力を貸してくれ・・・この命と引き換えてでもかまわないから・・・!」
 ふらふらとおぼつかない足取りで、蕾はようやく立ち上がった。そして左手をそっと横に差し出した。
「露珈・・・我が手に!!」
 懇親の思いを込めて蕾は聖剣を呼んだ。
 白銀の稲妻が蕾の左手に落ちたように見えた。涼やかにも眩しい輝きが手中に消えたあと、蕾の左手には螺鈿細工の鞘も美しい、皇女花将の聖剣・露珈が握られていた。
「むう?」
 東雲に夢中になっていた怪魔が蕾を振り返った。鞘から抜かれた白銀に輝く細身の剣は、その輝きだけで目の前の怪魔をいとも容易く消滅させてしまった。蕾の思いに呼応するかのように・・・。

To Be continued

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