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2010年3月21日 (日)

万華鏡 ③

「蕾・・・」
 再会の日より、二人の距離は確かに縮まっていた。蕾は東雲をただの幼馴染み扱いしたが、もうお互い何の違和感もなく行き来しては時を重ねてきた。周りから見ればさぞ仲むつまじい恋人同士に見えただろう。蕾に二〜三発殴られる東雲の姿を見る者ももちろんいた。確かに「許嫁」よりも「幼馴染み」という言葉がぴったりな二人だった。言いたいことを言い合い、はぐらかす蕾にカマをかけてみたり、愛しいと思う反面、少しいじめてみたり、その仕返しに数発殴られてみたり、そんな日常が自然になってきた二人であった。 東皇使という位を望んだのも、そんな蕾のために、蕾だけのために春をもたらしたい、と望む一心からであった、といっても過言ではなかった。しかし同時にそれは、誰も知ることのない事実でもあった。
「用がなければ来てはいけないのかね?私たちは誰もが認める許嫁同士なのだよ?許嫁どののご機嫌を伺いに来て何がいけないのかね」
「許嫁、許嫁と何度も言うな!お前など幼馴染みで十分だ!」
 蕾が嫌がるのを知っていて、東雲はわざと「許嫁」を連呼した。その結果どうなるかはもちろん承知の上だ。
「相変わらずつれないね、蕾。文は読むのが面倒になったから直接来いと言ったのは君なんだよ」
 と額に張り手の後を赤々と残しながら東雲は付け足した。
「そんな昔の話、憶えておらんわ!」
「やれやれ、どうやらお茶もご馳走してもらえそうにないから、帰るとしますか」
 と席を立ったときだった。
「待て」
 少し怒った口調で蕾は、東雲の上着の裾をひっぱり、強引に座らせた。
「な、何?」
『まさか、もう少しそばに居てくれ、なんて言うんじゃ・・・』
 あらぬ妄想を抱きながら、いつになく神妙な面もちの蕾を見て、やっぱりそれはないか、と苦笑した。
「は、話がある」
 蕾は少し伏せ目がちに、しかしその声には真剣さがこもっていた。
「・・・私は花将になりたいと思っている。だが母上が反対するのだ」
 どんな話かと思えば、意外にも、意外な話だった。いや、蕾ならあり得ないことはない。
「突然何を言い出すのかと思えば、花将だって!?そ、そりゃあ当たり前だよ。君は次期錦花仙帝になる身、確かに過去には何人かの皇女花将もいたよ、だけど母親としてはそんな危険な部署に君を置きたくはないんだろう。私だって君にそんな危険なお役目についてほしくはないよ」
 東雲は少し呆れたように、しかし当然のこととばかりに答えた。
「だけど私は・・・私には・・・」
 蕾はうつむいてしまった。
「何か思い詰めているのかい?」
 穏やかな声で問い返されると、蕾の顔はうっすらと赤みを帯びた。
「ちがう」
蕾は慌てて顔を逸らした。
「言ってごらん、全部聞いてあげるから」
 蕾はそっぽを向いたままだった。このおせっかいな幼馴染みのこうゆうところが蕾は苦手だった。こちらが何を言おうが、何をしようが、彼はいつも優しかった。時々小言を言うけれど、それはみな自分を思ってのことだということもわかっていた。この果てしない優しさは緑仙ゆえなのか、それとも自分に対してだけなのか、計り知れず、いつも戸惑い、ついつい殴る蹴るの暴行を加えてしまう。それが気持ちとは裏腹なものであることくらい自分でもよくわかっていた。だけど素直になれない自分が腹立たしく、またこの優しさに身を任せてみたいという衝動に駆られる自分にも腹を立て、その結果ついつい手と足が出てしまうのだった。
「たのむ、お前は昔から母上には気に入られていた。お前が母上にひとこと言ってくれれば、きっと母上も納得してくれるはずだ」
「まあ、そりゃそうだろうけど、理由を言ってくれなきゃ説得もなにもできたもんじゃないよ」
 そう言われて蕾はぐっとのどを詰まらせた。しかし黙っているわけにもいかず、渋々重たい口を開いたのだった。
「私は一生を花の皇女で終わらせたくはない。ただ護られているだけの皇女よりも、護る側の花将でありたいと小さい頃から思っていた。ここには護りたいものがたくさんある。私はそのためにあるとさえ思っている」
「護りたいもの?」
 護りたいのは私も同じ、君をあえて危険な目になんてあわせたくはない。だけど・・・。
「だけど、君が剣の稽古でアザや傷を作るたびに飛んでくる私の身にもなってみておくれ。君は私に今以上の心配をかける気かい?君が怪我をするたびどんなに心の縮む思いをしたことか」
 東雲は素直な気持ちを伝えようとしていた。
「傷の手当てなど頼んだ覚えはない!それに私が何をしようがお前には関係ない!」
 これが人にものを頼む態度か?と自ら思いながらも、蕾は立ち上がって怒鳴った。
「随分な言いようだね。じゃあなぜ私に相談なんかするんだね。蕾、君には私の気持ちは未だに伝わっていないのかい?だったら悲しいよ。だけどね蕾、私は君に危険な目に遭ってほしくはないんだ。その体に傷をつけるなんて、そんな・・・花将になどなって万が一君の身になにかあったら私は・・・!」
 東雲も立ち上がり、蕾のことをいつになく強い眼差しで見下ろした。蕾の瞳は何の迷いもなく、東雲を睨み返していた。
「蕾・・・!」
 その真っ直ぐな瞳を見ていると、東雲はたまらなくなり、無意識のうちに蕾の体を引き寄せ、抱きしめていた。
「!?」
 突然のことに驚きながらも、蕾はなぜか抵抗することができなかった。
 蕾が怪我をしたと聞いたら誰よりも早く駆けつけ、治療とともに小言の嵐をなげつけた。しかしその裏には溢れんばかりの愛情とさり気ない気遣いがあった。自分のことを心から心配してくれていることが手に取るようにわかり、だけど素直になれず、いつもその手を振りほどいてきた。それでも彼は優しかった・・・。生まれる前より許嫁と定められた幼馴染み、彼のいつまでも変わらぬ真っ直ぐな心は誰の目から見ても明らかだった。
「東雲・・・」
 武道のたしなみなどなかった彼の蕾を抱きしめる腕は意外と力強かった。森林の大気に包まれたような心地よさに、つい気がゆるんでしまったのか、蕾は一瞬我を忘れていた。
「蕾さま、お茶をお持ちしま・・・あ」
 静かだった森に木の実が一つ、落ちたような感覚だった。盆に茶碗を乗せた妙香花仙が部屋の入り口に立っていた。
「こ、これは失礼を・・・」
 と少し頬を赤らめて退室しようとした時だった。
「はなせ・・・」
 東雲の胸元で蕾が呟いた。
「え?」
「はなせと言っているー!」
 東雲の腕を大きく振り払うと、蕾の右が東雲の左頬に炸裂した。その拍子に後方の壁に叩きつけられた。そして蕾はそのまま窓を乗り越え、どこへともなく飛び去ってしまった。
「東皇使さま!?」
 掲げていた盆をひっくり返し、慌てて薫が東雲に駆け寄った。
「一体どうして・・・」
 訳がわからず東雲は呆然とした。

To Be continued

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コメント

蕾に夢中な東雲さんがカワイイですねv も~~蕾が可愛くってしょうがない様子でついつい弄っちゃったり、気持ちが知りたくてカマをかけちゃったりするんだろうな~(//▽//)周りからは「何故あの、聡明な森の皇子さまがあんな粗野な皇女公に…」とか気の毒がられるのもモエだしheart01catface
東雲さんの腕って皇女である蕾にとってはかなり男性を感じさせられるんだろうな~と思いますhappy02皇子である蕾だったら、絶対蕾のほうが力強そうだけど…(そして東雲は殴り飛ばされる/笑)それが蕾の魅力ですしね(笑)catface
にしても薫さん、絶妙のタイミングで惜しいことを…!!こんな良い場面、邪魔しちゃダメですゎ~!sad

投稿: 歩 | 2010年3月24日 (水) 09時07分

ホントは二人とも内心ラブラブheart04なんですけど、蕾の性格がアレ、ですから東雲さんは毎度のことながら苦労してますcoldsweats01
蕾も思春期で成長止まってるので、東雲さんにどう接して良いのか戸惑うこともあるんですね。ましてや所々に「男」を感じる瞬間なんかは、もうどうして良いのかわからなくなってパニクったりしてwobbly
それにしても薫さん間が悪いですねsad
空気が読めないんですcatface

投稿: かりん | 2010年3月24日 (水) 15時35分

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