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2010年4月 6日 (火)

ココロノカガミ ②

 逆に東雲は今の状況に深い溜息をついていた。
『こんな狭い温泉で、背中合わせながら蕾と二人で湯に浸かるなど、いくら私でも理性が保てるかどうか不安だよ。まあ、万が一私の箍が外れても、蕾の方が強いからきっと殴り飛ばされるんだろうけど。・・・ははは』
 と東雲は小さく苦笑した。その時、
 つい、と自分の背中に蕾の背中があたる感触に東雲の体は硬直した。
「つ、蕾!?」
 思わず声が裏返ってしまった。
「ちょっともたれさせろ」 そう言うと蕾の体重が東雲の背中にかかった。
『ま、まずいよ蕾〜』
 東雲は思わず両手で股間を押さえた。

「蕾・・・?」
 しばらくして、幾分気持ちが落ち着くと、沈黙に耐えられなくなった東雲が、ぽつりと言った。何か話さなければ、と。
「ホントにごめんよ」
「何がだ?」
「私がヘマをしたばかりに君に大変な傷を負わせてしまった・・・」
 少々元気のない声に、蕾は慌てて答えた。
「何度も言うようだが、お前のせいではない。・・・それに、お前のおかげで露珈が現れたのだし」
「そのことなんだけど、私のおかげっていうのはどういう意味なんだい?」
 蕾が目覚めたとき、怪我を負わせたことを詫びた東雲に蕾はそう言ってくれた。それはただ単に自分を庇い、励ますためだけの言葉ではないと密かながらに感じていた。そしてそれが自惚れでないことを願いつつ、言葉の真意を知りたいと思っていた。
「そ、それは・・・」
 それは愛する者を、東雲を護りたいという一心からの事だったが、いつも東雲の優しさに反発し、殴る蹴るの暴行を加えていた自分に、今さら愛の言葉など言えるはずもなく、蕾は鼻の辺りまでぶくぶくと湯に浸かった。
 いっそここでうち明けてしまったほうが良いのだろうか。しかしどんな顔をして言えというのか。いや、今なら顔を見なくて済む。赤く染まる頬も湯のせいにできる。短絡的にそう思った蕾は、湯から顔を上げるとひとつ小さく深呼吸した。
「それは・・・お前を護りたいと思ったからだ!・・・何を失っても・・・この命にかえてでもお前を失いたくない、と強く思った。そしたら露珈が現れた・・・」
「え?」
「あの時、初めて自分の気持ちに向き合えた。どれだけお前が私にとって大切な存在なのか、思い知った・・・」
「そ、それはもしかして・・・」
 驚いた東雲が少し振り返った。それに気付かず蕾は話し続けた。
「私はお前に優しくされればされるほど、素直になれなかった。親に決められた許嫁と反発してはお前を殴りつけた。それでも優しいお前に、私はどうしていいのかわからなくて・・・。だけど気がつけば私の心の中にはいつもお前だけがいた。日ごとに募っていくこの気持ちが何なのか、わからなかった。けど、あの時全部気付いたんだ。私はお前を・・・」
 蕾はうつむいた。東雲はその先の言葉を鼓動を高鳴らせながら待った。
「私はお前を・・・」
 蕾がゆっくりと振り向いた。当然目が合った。
「∞<☆△※!!」
 まさか東雲がこっちを向いているとは思わなかった蕾は、恥じらう顔を見られたショックで声にならない悲鳴を上げながら、無意識のうちに右のストレートを繰り出していた。
 バシャ!と東雲が湯に沈んだ。
「蕾〜!!」
 左の頬を押さえながら浮上した東雲に、蕾は後ずさった。 
「卑怯だぞ、東雲!」
 顔を真っ赤にしながら蕾は叫んだ。
「ご、ごめんよ蕾」
 なぜ自分が謝っているんだ?と疑問に思いつつ、湯の中ということを忘れ、思わず一歩にじり寄った。
「あ・・・」
 ビクッと身を震わせた蕾に気づき、一歩下がった。「蕾、お願いだ。続きを聞かせておくれ。君は私を?」
 蕾は顔をそらし、きつく唇を結んだ。
「蕾?」
 東雲が湯煙の向こうで優しく微笑む。
 東雲は自分の言葉を待っている。まるで見透かされているようで言いたくなかったが、言ってしまいたい気持ちも確かにあった。言って楽になりたい。自分の想いを伝えたい。蕾は意を決したように東雲を真っ直ぐに見据えた。
「私はお前が好きだ!お前に触れたいし触れられたい!!」
「好きだ」で止めるはずが、勢い余って本音の本音を叫んでしまい、思わず両手で口を覆った。顔に火がついた思いがした。
「蕾・・・」
 東雲は嬉しそうに目を細めた。
「・・・あの時、お前を失いたくないと強く思ったんだ。お前が愛しいと、初めて気付いたんだ!」
 言ってしまったついでとばかりに、蕾はさらに白状した。
「多分、初めてお前を見たときから私は、お前に惹かれていたのだと思う。だけど私はこんな性格だ。自分の気持ちに気がつくのにこんなに時間がかかってしまった・・・」
「そんなことはないよ。蕾、君はずっと私を見ていてくれたんだね。君の本当の気持ちを知ることが出来てうれしいよ」
 いつの間にか、東雲がちょっと手を伸ばせば触れられるほどの位置ににじり寄っていた。
「東雲・・・」
 蕾は恥ずかしそうに、少しうっとりとした眼差しで東雲を見た。
「触れても・・・いいかい?」
 東雲が微笑みながら首を傾げた。
「ん・・・」
 蕾は小さくうなずいた。
 東雲は両手で蕾の頬を包み込むと、そっと自分の方を向かせた。微かに震えているのがわかり、それが尚更愛おしさを増す。
「好きだよ、蕾・・・」
 東雲の唇がそっと蕾に重なった。たちまち森の香りに包まれた蕾は一瞬我を忘れ、体を東雲に密着させると背中に腕を回していた。東雲の手も蕾の頬から離れ、強く引き寄せるように肩を抱きしめた。そして片手が背中から腰、臀部にと触れた感触で蕾の目が覚めた。
「ちょっと待てーっ!」
 両手で勢いよく突き飛ばされ、東雲は吹っ飛んだ。蕾は両手を交差し体を隠しながら、真っ赤になった。今更ながら、自分たちが裸であったことに気付いたのだ。
「ひ、ひどいじゃないか、蕾〜。背中に手を回してきたのは君のほうだろう」
 溺れそうになった体を立て直し、更に岩に打ち付けた体をさすりながら東雲は訴えた。
「そこまで許した覚えはないー!」
 肩まですっぽりと湯に浸かり、蕾は叫んだ。
「それにしても蕾、君って、存外というか、やっぱりというか、結構小さ・・・」
 自分の体に当たった感触を思い出しながら手で形作り、にこやかに言う東雲に、無言の右ストレートが炸裂した。
「上がるぞ!」
 湯にプカプカと浮かぶ東雲を尻目に蕾は湯から上がると、体を拭き、新しい着物に着替えた。
「ああ、待って。新しい包帯を・・・」
 と、慌てて東雲も上がり、身体も拭かずにまだ生乾きの着物を手早く羽織った。
 やわらかい草の上に座り、東雲は丁寧に蕾の傷に薬を塗ると、包帯を巻き付けた。そっぽを向いている蕾の顔をチラと見た。湯にのぼせているせいか否か、未だに顔の赤みは消えていなかった。
「蕾、こっちを向いて」
「?」
 ふと顔を向けたと同時に再び唇をやわらかく包まれた。今度は長く、そして深く。唇が離れた後、少し戸惑う蕾に東雲はいつもの優しい微笑みを投げかけた。
「愛しているよ、蕾」
「わ、私もだ・・・」
 もう自分の気持ちを偽る必要はなかった。そう思うと、素直な言葉が口を衝いて出るような気がした。
 照れくさそうにうつむく蕾の顔を上げさせ、東雲は三度唇を重ねた。

 木漏れ日が湯煙をキラキラと光らせながら、そんな二人を優しく包んでいた。

 後日、打ち身に泣く東雲が、風邪をひいたのは言うまでもない。

END

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コメント

こんにちは~!引越&風邪も何とか落ち着いてきてやっと書き込みに来れました☆

互いの気持ちを確認できたラブラブなふたりがシアワセ~なお話ですが、東雲さんはちょっと…○半身が切なかったかもですね(笑)

それにしてもムネが小さいのは蕾にとってはコンプレックスだろうに、手で形作っちゃダメでしょ…東雲さん(笑)

投稿: 歩 | 2010年4月12日 (月) 10時52分

わはは。今回の東雲さん、ダメですよね~。でもやっと想いが通じたのでよしとしなければ。ここからどんどん発展していくんだもの!頑張れ東雲さん!!
ちなみに蕾のサイズはA70くらいかしら?

季節の変わり目なので、体には気をつけて。無理しないでね~。

投稿: かりん | 2010年4月12日 (月) 15時22分

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