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2013年9月の記事

2013年9月30日 (月)

遠雷 〜草冠の花の皇子〜3

 雲間が一瞬閃いたのと同時に、雷雕の片手が、再び蠎座の片足を掴んだ。
 パ…シィィィ………ン!!!
 一瞬、全ての聴力が奪われたと思える程の鋭い雷鳴が轟き、先程雷雕の力が消えていった雲間から、とてつもなく巨大な銀色に輝く『力』が柱となって蠎座の上に落ちた。
「ぐがぁ…ぁぁ…っ…!!」
 全てのものが光に包まれ、形をなくした。それほどの眩しい輝きに、ビリビリと感応する聖剣を手に、蕾も視線を反らし、片手で顔を覆った。
 長い時間の様に感じられた。いや、実際はほんの一瞬だったのかも知れない。光が薄れ、消えたあとには蠎座の姿は跡形もなく、雷雕が倒れているだけだった。
「光明界の怒りだ…」
 東雲が幾分青ざめた面持ちで呟いた。
 天に上った雷閃石の力が、光明界に全てを知らせたと言っても過言ではなかった。
「雷雕!」
 東風王が雷雕を抱き起こした。蕾もすぐ側に膝を折った。
 転げ落ちた雷閃石を拾うと、蕾は雷雕の右手を取り、そっと握らせた。
「俺…は…」
 知らされた真実と深い後悔。激しい怒りとやり場のない悲しみ。様々な感情を処理できず、雷雕はゆっくりと瞳を閉じた。
 パチパチと線香花火が散るように、その姿は残像を残しながら東風王の腕の中から消えていった―。

     ・
     ・
     ・

 蕾の頬をつぅ…と一滴、つたうものがあった。それはポツリ…ポツリと桜色の頬を幾筋も濡らしはじめ、次第に激しく降りだした。 空からは怒りとも悲しみともとれる低い唸りが、いまだ地上を震わせていた。
 ―護りきれなかったものがあった。絶大な力を与えられながら、御大花将という肩書きを戴きながら、護れなかったものが確かにあった―

 いつしか激しい雨が降りだし、辺りを真っ白にそめていた。
 立ち尽くし、ただ濡れそぼる蕾は、己の無力さに奥歯をギリギリと噛みしめていた。
 そんな蕾を付かず離れず、見つめる東雲の姿が側にあった。
 彼が何を『想う』のか、東雲には手に取るようにわかっていた。それ故に、東雲の心もチリチリと傷んだ。

 低く重々しい響きを引きずる様に、次第に雷鳴は遠くへと消えていった――。
     ・
     ・
     ・

 数週間後、東雲に呼び出された蕾は、枝下桜の山に舞い降りていた。
 まだあの時の爪跡が生々しく感じられ、心が傷んだ。

「蕾…ごらん。下界の草花の生命力は私たちが思っている程弱くはないんだよ」
 そう言うと、辺りを見渡す様促した。
「ほら、焼けてしまった後からもう新しい芽が出ているだろう?表面の草花は焼けてしまっても、根は生きているんだ」
「…」
 蕾は東雲に言われるまま、その場に両膝をつき、空に向け伸びようとする雑草に手を添えた。
「ああ、わかる。必死で生きようとする強い意思を感じる」
 この辺りの草木が全滅しなかった事が、彼の者にとってもせめてもの救いになったように思えた。しかし、枝下桜は…。
「…雷閃石は私と東風王とで光明界の貴曄雷皇帝(きようらいこうてい)さまに届けたよ。雷雕の事、とても悲しんでおられたよ…」
「…そうか」
 蕾は小さく呟いた。
 その時だった。頭上にフワリと何かが被さった。
「んっ!?」
 驚いて両手を頭に持っていき、手にとると、それは草で編んだ冠だった。
「シロツメクサの冠だよ」
 東雲がニッコリと微笑んだ。
「はぁ!?シロツメ草って…普通、冠にするなら花の方ではないのか?」
 花冠であったなら、それはそれでまた顔を真っ赤にして怒るところなのだが、なぜ草冠なのかがわからず、蕾は少し不服そうに言った。
「だって、雷に草冠で…“蕾”だろ?それに、“花”はきみだから」
 東雲はニコリと笑った。
 次の瞬間、顔を真っ赤にした蕾に殴られ、ふっ飛んでいた。
「酷いじゃないか、蕾ぃ〜」
「お前が妙なマネをするからだ!!」
 情けない声を出す東雲に、照れ隠しで怒る蕾。蕾はいつしかいつもの調子に戻っていた。

「ねぇ、蕾。こっちに来て見てごらん」
「なんだ!またつまらん事をしようと言うのなら、ただではおかんぞ!?」
 プンスカと怒る蕾を東雲は「まあまあ」と優しく手招きした。
「…!これは…」
「ああ。この樹もまだ生きているんだ。裂けた幹の一部からごくごく小さいけれど、新しい芽が生まれてきているだろ?きっときみと私の気を与えたからだ」

 それは落雷に引き裂かれた枝下桜だった。
 実は風雷龍の一件以来、東雲は毎日の様にこの地を訪れ、枝下桜の様子を伺っていた。そして、その兆候が現れたのを確認したうえで、蕾をこの場に連れて来たのであった。

「大丈夫。何年後かはわからないけど、この桜はいつかきっと花をつけるよ」
 そんな東雲の言葉に、風にそよぎながら、幸せそうに笑っている桜花精の姿が脳裏に浮かんだ。


 いつか再び咲ける日が来る。それがいつかはわからないが、その日が来たら何をおいても真っ先にここに来るだろう―。

 その日まで………

「待っているぞ、桜花精…!」

 蕾はこの桜の『春』を想い、小さく微笑んだ。


END

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2013年9月29日 (日)

遠雷 〜草冠の花の皇子〜2

「その頃私は、羽矢房さま率いる東風王軍の准将でした。そして私が率いる大隊の頂点に梟羽の父、蛇火(たか)はいました」
 東風王は想いを馳せるように遠くを見つめた。
「蛇火は雷仙のとある一族の姫との間に男児をもうけ、その子供は母親の元で育てられていました。その一族とは、はるか昔に一振りの聖剣を鍛え上げ、今はその聖剣を守護する事を務めとする者逹でした」
 聖剣にかかわる意外な事実に、蕾は手にしていた聖剣を思わずじっと見つめた。
「ある日、下界の小蓬莱で子供に会う事になっていた蛇火が約束の場所に辿り着くと、そこは何者かに襲撃された後で、無惨な姿をさらしていました。怪魔の仕業でした」
「!?…花士は…そのような者が小蓬莱に下る時は必ず花士が護衛についていたはずでは!?」
 それでなくとも、小蓬莱には常に花士が駐屯しているはずであった。
 小蓬莱への怪魔の襲撃…。自らには関係のない過去の事とは言え、蕾は花将としての責任を感じずにはいられなかった。
「はい。当時、小蓬莱は碧軍の管轄でした。もちろんその時も数名の碧軍の花士が同行していたようです。しかし…蛇火に同行し、傷を負いながらもなんとか帰還した東風王軍の者から事態を聞き、駆けつけた時にはすでにもう…」
「怪魔にやられたと言うのか?」
 東風王軍の大隊を任される程の猛者が、いとも簡単に怪魔の手にかかるなど、蕾には不思議でならなかった。
「…おそらく、子供を盾に取られたものと…」
 東風王も少なからず悔やんでいた。
「しかし、そこにはまだ赤子であった子供の姿はなく、怪魔に連れ去られたものと思われ、それ以降、東風王軍はずっと子供の消息を尋ねておりました。そして最近になって、風と雷を操る怪魔の噂を聞き、もしやと思いこうして探していたところなのです」
「では、この者がその時の赤子…だと?」
 東雲が梟羽に視線を送り、根拠を問うた。
「はい。この者が身に付けている玉を見て、確信が持てました。あれは雷閃石。雷仙の母が子供に託したものなのです」
 梟羽は東風王の話しに狼狽していた。あまりにも突然の事で、理解出来なかったからだ。
「う、嘘だ。俺が天仙だと!?俺は畏界で生まれ、蠎座(もぐら)と言う名の親父どのに育てられた、れっきとした怪魔だ!!」
 一体自分は『何』を否定しているのか、梟羽自身も訳がわからなくなりはじめていた。
「梟羽…。あの日、なぜお前の両親が小蓬莱へ行ったと思う?」
「!?」
「お前に、真実の名を授けるためだったのだ」
 梟羽は意味もなくたじろいだ。
「お前の名は梟羽ではない。お前の本当の名は…雷雕(らいちょう)という」
 東風王は噛み締めるようにその名を告げた。
「ら…い…ちょう…?」
 たどたどしくも、梟羽が自らの名を口にした時だった。
 パァァァ………ッ!
 突然、雷雕の胸元の雷閃石から雷光が迸り、パリパリと雷気を帯びながら巨大な光の柱となって空へと昇り、低い唸りをあげながら吸い込まれる様に消えていった。
「!?」
 その光景に誰もが息をのみ、しばしの間、光が消えていった雲間に釘付けとなった。
 …その時だった。
「ぐはぁ…っ!!」
 突然、雷雕の全身から血が吹き出したかと思うと、大きく体勢を崩し、そのまま落下すると、地面に叩きつけられた。
「何かいる!?」
 蕾は咄嗟に聖剣をきつく握り直した。
 地表…いや土中から何らかの力が放たれ、雷雕を貫いたのだった。
「雷雕!?」
 東風王が急降下し、雷雕のすぐ側に膝を折り、抱え起こした。
 その直ぐ側に蕾も降り立つと、聖剣の切っ先をスッと気配のする方へ突きつけた。
「何者だ。出てこい!」
 すると、もぞもぞと土塊が動き、黒い頭が、そして土を掻き分けるようにゴツゴツとした、だか細かく鋭い針のような体毛を持った細い腕が地表に現れ、地面に両手をつくと、反動をつけ、自らの体を土中から引き抜いた。
「お、親父どの…!?」
 雷雕は驚きのあまり、一瞬目を見張った。がしかし、支えてくれていた東風王の手を振りほどき、半ば這う様に蠎座の側へと辿り着いた。
「親父ど…」
 次の瞬間、再び血飛沫が舞った。
「!!?」
 蠎座に向けて差し出された雷雕の手は、虚しくも小さく震え、力なくパタリと落ちた。
「雷雕っ!!」
 東風王が叫ぶ。
「な…ぜ…?…」
 瀕死の状態で育ての親を見た。
「なぜだと?決まっておる。もうお前には用はないと言うことだ」
 その言葉に雷雕は耳を疑った。
「ぐぁ…っ!」
 蠎座は雷雕の体を蹴りつけ、仰向けにすると、胸に光る雷閃石をもぎ取った。
「儂が用のあったのはこれだけだ。この力を手に入れるためにお前をここまで育ててやったのだ。だが、昔の事を知ってしまったお前にもう用はない。それに、この力はお前が使う事で十分熟した。儂とて操れぬ事もなかろうよ…」
 蠎座は蕾の方を見た。
「お主のその剣、この玉と同じだそうだな。ならば儂はこの力を使って、その剣を手に入れる!聖剣ともなれば、同じ玉とは言えど力は格別なはずだからな。そうしてまずは手始めに怪魔界を儂のものにしてみせようぞ」
 クックック…と蠎座は喉の奥で笑った。
「親父…どの?では、あの風の者が…言っていた事…は本当の事…なの…ですか!?」
「本当も何も、お前の両親を殺ったのは儂だ。お前の雷閃石の力を手に入れるためにな!お前は今まで儂のためにその力を使っていただけにすぎぬ。利用されていただけなのだ!」
 蠎座はさも可笑しそうに高笑いを上げた。
「そ…」
 雷雕は体が激しく震えるのを感じた。それを必死で堪えるように、ギリギリと握りしめた指の隙間からは血が滲み出していた。
「さあて、そろそろお宝をいただくとするか」
 蠎座は舌舐めずりをすると、雷閃石を握りしめていた手のひらを広げた。
 蠎座の手のひらの上で、パリパリと雷気を帯び始めた玉が、妖しい光をも纏い始めていた。
「身の程知らずめが…!」
 蕾は小さく吐き捨てただけだった。
 その時だった。
「!!」
 雷雕が深傷を負いながらも蠎座の足元に飛び付いた。
「うぬ、何をする!離せ!!」
 バシュ!と雷雕の肩口から血飛沫が上がった。
「おのれ…!俺は今まで…ずっと…」
 裏切られた事を知り、悔しさとも腹立たしさともとれる感情を一気に膨らませ、蠎座を掴む両手に渾身の力を込めた。
「うぅ…っ!?」
 すると蠎座の手のひらの玉がパチパチと火花を散らし始め、急速に熱を持ち始めた。
「うぁ!?」
 振り払おうとしたが、それは焼き付いたかのように吸い付いて放れなかった。「うぉぉぉーーーっ!!」 凄まじい雷気が雷雕の手から雷閃石を軸に、蠎座の体を貫いた。それは一筋の雷の柱となり、雲間へと消えていった。
「雷雕!?」
 東風王が駆け寄ろうとしたところを蕾が片手で遮った。
「ぐっ…うぅ…」
 凄まじい雷気を放ったにもかかわらず、蠎座は致命傷さえ負っている様子はなかった。殺られる、と感じた本人も、幾分拍子抜けした様子で、ぐったりとした雷雕の姿を見下ろした。
「ふ…はっはー!」
 蠎座は雷雕の力が不発だった事に大声を上げて笑った。それに呼応するかの様に、灰色の雲間からゴロゴロと低い唸りが響いた。
「残念だったな。お前にはもう、儂を倒す力など残ってはいないようだ」
 勝ち誇ったかの様に蠎座が右手を空(くう)に差し出すと、細身の鋭い剣が現れた。
「死ね!」
 蠎座が剣を振りかざした時だった。


To Be continued

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2013年9月28日 (土)

遠雷 〜草冠の花の皇子〜1

 薄暗い雲が空を覆い、遠くで鳴っていた微かな雷の音が徐々に地響きを伴い街の上空に辿り着いた。
 雨は伴わず、ゴロゴロと低い唸りを響かせ、街行く人々を不安にさせる。そしてそれは突然弾ける様に煌めき、凄まじい轟音と共に閃光を走らせた。
 ピシャーッ!!ドドォォォ……ン!!
 その一瞬に人々は立ち竦み、思わず両耳を押さえ、ある者は頭を抱えしゃがみ込んだ。
 春雷にしてはかなりの重たさを感じた。
「どこかに落ちたみたいだな…」
 一筋の稲妻の行方を目を背ける事なく見ていた蕾は、誰にともなく呟いた。
「風雷龍(ふうらいぼう)だろう…」
 すぐ横に立っていた東雲も呟いた。
「風雷龍?」
 怪訝そうに蕾が答えた。
「ああ。最近落雷が多いだろう?何でも風雷龍と言う怪魔の仕業らしいんだ」
「…雷を操る怪魔だと?」
 東雲の言葉に、美しい顔(かんばせ)の眉間を僅かに歪ませた時だった。今度は別の方向に、先程よりもはるかに大きな閃光が走った。その後には体の奥底にまで響くような低い轟音が続く。
「!あの場所は…!」
 蕾は一瞬息をのんだ。
 今、まさしく落雷があった場所は、数日前に二人が訪れた枝下桜の咲く山だった。


 うっすらと漂う煙と、焼け焦げた臭いが不安を掻き立てる。
 まるでそれを狙ったかの様に、ごくごく限られた範囲だけが黒く焼け焦げていた。
 ふわりとそこに降り立った蕾は、呆然とした。昨日まで美しく咲き誇っていた枝下桜の樹が、落雷に引き裂かれ、地面に倒れ伏し、一部はいまだ小さく燃えながら黒い煙を燻らせていた。辺りに微かに残る気には、はっきりと悪意が感じられた。
 枝下桜の無惨な姿に、蕾は怒りをあらわに拳が白くなるほど握りしめた。
「風雷龍と言ったな…」
 誰に問うでもなく小さく呟くと、雷鳴轟く空を睨み付けた。
 その時、一陣の風が舞い降りた。ほのかに暖かな風が悪戯に渦を巻き、蕾の髪を乱す。今、前に現れたのは風の四天王の一人だった。
「お前は…東風王斗騎…!」
 東風王は風の覇王の皇子である蕾に礼を示すため、その場にひざまづいていた。
「なぜお前がここに!?」
 口調は何時もの通り、毅然たるものだったが、それは皇子としてではなく、御大花将としてのものだったので、東風王は面を上げると、スッと立ち上がり口の端にほんの少しの笑みを浮かべた。
「風雷龍を追っておりました。花将どのこそ、なぜこのような所に?」
 蕾は無言で、無惨な姿をさらしている枝下桜にゆっくりと視線を向けた。
「これは…。風雷龍の仕業ですね」
 東風王は直ぐ様察すると膝を折り、枝下桜の様子を伺った。
「東風王、風の者がなぜ風雷龍を追っているのだ」
 一介の怪魔にしては、確かに持てる能力(ちから)が気になりはする。だが…。
「実は、風雷龍は…」
 東風王が言いかけた時だった。
 ゴォォォ…ッ…!ドォォォ……ン!!
 激しい地響きを伴い、再び凄まじい雷牙が放たれた。
「この近くだ!」
 空を見上げた蕾が間髪入れずに翔上がった。
 その後をすかさず東風王が付き従う様に追う。
「東雲!お前はそこで待っていろ!!」
 釘をさすように言いつけると、蕾はたちまち小さな点となり東雲の視界から消えてしまった。
「蕾!!」
 あまりの慌ただしさと低く唸る余韻が、東雲の心に否応なしに不安を響かせ、巻き上げられた風の中、乱れる髪も風のままに、東雲は思わずその場に立ち竦んでしまった。


 枝下桜の花精の嬉しそうな笑顔が脳裏に焼き付いていた。懸命に咲き、愛でられる喜びを改めて覚えた、健気な花精の笑顔だった。

『決して逃がしはしない…!』
 蕾は強く心に思った。
 ザウッ…!と風を切りながらその気配を追うと、程なく、雷気を纏い空中に佇む一人の男を捉えた。
 蕾の気配に気付き、男もゆっくりと目線をこちらに向けた。
「貴様が風雷龍か!?」
 蕾の問いに男は、長い白銀の髪をたなびかせながら、睨み付けるような鋭い眼光を蕾に向けた。
「そう言うお前は何者だ?」
 蕾の、あどけないがどこか凛とした少年の姿を見てとって、怪訝そうに問い返した。
「オレは天界の御大花将だ」
 その答えに、一瞬躊躇いの表情を見せたが、それも気のせいであったかのように、男は笑いながら答えた。
「はっ!お前が御大花将だと!?風の噂を耳にしたことはあったが、まさか本当にこんなガキだったとは!」
 男は、蕾の姿を上から下へ、ゆっくりと値踏みをするかのように見てとった。
「で、その御大花将が俺に何の用だ?」
 白々しく聞き返すその態度は、明らかに蕾を軽視していた。
「お前が風雷龍かと聞いている!」
 自らの問いに答えない男に苛立ちをおぼえ、蕾は再び問いかけた。
「いかにも。俺が風雷龍の梟羽(ふくろう)だ」
 やれやれ、とばかりに梟羽は答えた。
「お前は許しがたき罪を犯した。その罪、その身をもって償ってもらう!」
「罪だと!?」
 蕾の台詞に梟羽は、不服そうに声をあらげた。
「そうだ。お前はあの山の枝下桜を傷つけた。花将として見過ごすわけにはいかぬ」
「ああ、あの桜の樹!ふん、あまりにも幸せそうに咲いていたから、一思いに引き裂いてやったわ。だがな、あれだけではないぞ!?あちこちで俺は花や樹を踏みにじってきてやった。これからもそうだ。地上にある植物はもちろん、動物も人間も、全て俺の力で焼き尽くし、地上を…果ては畏界や天界をもこの手に治めてやるつもりだ!」
「なに…!?」
 梟羽の台詞に蕾は己の耳を疑った。
「まずは手始めに小蓬莱からと思っていたが、その前に邪魔者を消さねばならぬようだ」
 梟羽は人差し指を空に向けた。するとザワザワと風が騒ぎだし渦を巻くと、指先に気が集中しはじめた。
『まさか、風も操れるというのか!?』
 風雷龍の未知数の力の前に、蕾は身構えた。
 パリパリと弾けながらそれは瞬く間に大きな球体に膨れ上がり、凄まじい雷気を帯びた。
「消えろ!!」
 梟羽が蕾を指差す様に弾ける球体を投げつけた。
「はぁ…っ!!」
 蕾は両の手のひらを突き出し、咄嗟にそれを受け止めた。
 バリバリバリ…ッ!!
「くぅ…っ!」
 弾けた雷気は、まるで生き物の様に蕾の体にまとわりつき、鋭い刃物の様に衣服を、白い肌を切り裂いた。
「花将!?」
 程なく追い付いた東風王だったが、容易に手を出すことが出来なかった。
「ああっ…っ!!」
 細かく放電しながら竜巻の様に蕾の体を徐々に締め付け、身動きどころか息も出来ない程だった。
 ピシ……ッ!
 白銀の雷気の中に朱色が混ざり、梟羽がほんの少し口角を上げた時だった。
「!?」
 梟羽が思わず身を交した。そのすぐ脇を何かが勢いよくすり抜けた。
 何かが雷気を切り裂いたのだ。
「蕾!」
 後を追ってきた東雲が、蕾の側に身を寄せた。
「東雲!?」
 雷気を切り裂いたのは東雲の守護の杖だった。
「お前、なぜ来た!?来るなと言ったではないか…!!」
「だって、きみを放ってはおけないよ」
 力では蕾どころか、並みの花士にも劣る事はわかっていたが、危険に身を投じる蕾を黙って見ていられる東雲ではなかった。
「しゃらくさい!」
 梟羽が目の前の空気を払い除ける様に大きく右手を動かした。
 ゴォ…ッ!!
 と、雷気混じりの突風が東雲を襲った。
「!!」
「東皇使さま!」
 咄嗟に東風王が身を乗り出し、細身の剣でそれを弾き返した。
『!?…この感じは…』
 パリパリと剣にまとわりつく雷気とその手応えに、何かを感じ取り、東風王は一瞬考え込んだ。
「よそ見をするとは見くびられたものだな。くらえ!雷旋風!!」
 先程よりも強力な力の塊が東風王めがけて放たれた。しかしそれは東風王の一太刀で真っ二つに切り裂かれ、左右に轟音を響かせただけだった。
「!!」
 この時の攻撃で東風王が何かに気付いた。いや、それはほぼ確信に近かった。
『やはり…そうなのか!?』
 梟羽が雷気を使って攻撃する際、その気が蓄えられる場所が梟羽の胸元に集中していた。
『確かめねば…』
 東風王が放たれた雷(いかずち)の矢を避け、指先から鋭い風刀を投げつけた。
 ピュ…ッ!!
 細い音をたてながら、それは梟羽の衣服を左肩から右脇腹辺りまで切り裂いた。
 ハラリと衣服がはだけ、蝋のような白色の肌に東風王がつけた朱線がうっすらと走っていた。
「!?」
 とっさの事に驚き、一瞬梟羽は狼狽した。
「やはりお前は…」
 思わず傷に手を当てた。その胸元には怪魔には不釣り合いな美しい瓔珞(ようらく)の首飾りがぶら下がっていた。
 その首飾りの中心には、回りの宝石よりも地味ながら、貴き光を宿す金属とも石とも思える玉(ぎょく)があった。
「貴様…っ!」
 怒りを露にした梟羽の目がつり上がり、体の周囲を雷気が帯びる。それと同時に先程の玉の内部でパチパチと小さな雷が弾けはじめた。梟羽の気が高まり、瓔珞がフワリと風に舞うように浮き上がると、それを包み込むかのように両手を添えた。雷気は玉によって徐々に膨れ上がり、ついに東風王目掛けて投げつけられた。
「ハァァ……ッ!!」
 両手を前に付き出すと、雷気の塊が風の渦とともに東風王に向かって凄まじい勢いで襲いかかった。
「東風王!!」
 東風王は身構えると、両の手のひらを上下に合わせ、相手の攻撃を受け止める体勢で備えた。
 稲妻を凝縮させたような力の塊が東風王に迫る。
 東風王の手のひらからも気が溢れだし、風の渦を作り出している。
 風と雷を操る怪魔の力と、風の四天王の力が今、まさにぶつかろうとしていた。この二つの力がぶつかった時、どれ程の凄まじい力が発生するのか予測はつかなかった。が、少なからず地上に何らかの影響を及ぼすことは確かであった。
 梟羽の狂喜に満ちた叫び声とともに稲妻の塊が東風王を襲った。その時だった。
 キィィィーーー……ン!!!
 脳天をつんざく様な金属音にも似た、凄まじい音に弾かれたように力の塊は細かく砕け散った。
「花将!?」
 梟羽と東風王の間に立ち塞がったのは、パリパリと放電する雷気の余韻を纏った聖剣を手にした蕾だった。
「何だと…!?」
 渾身の雷気をいとも簡単に弾かれ、梟羽は目を見張った。
 蕾も聖剣の、雷気に対する反応をほんの少し不思議に感じ、思わず手中の聖剣を見つめた。
「そんなバカな!?」
 ドォォォ…ン!
 慌てふためき、再び放った雷気をまたもや聖剣に弾かれ、梟羽は焦りを隠せなかった。
「無駄だ…」
 蕾は冷ややかに投げ掛けた。
「何故だ!何故俺の雷気がきかぬ!?」
 こんな事は初めてだと言わんばかりに、梟羽は狼狽し、身体を震わせた。
「そんな剣など粉々になろうものを!」
 チャキ…と蕾は聖剣を構え直した。
「お前の雷気はこの聖剣には通じぬ」
 そう告げたのは東風王だった。
「なに!?たかが聖剣ごときに俺の雷気が劣るわけがない!」
 体制を立て直し、三度雷気を放つが、やはりそれは轟音をあげながら弾け、聖剣にまとわりつくように消えていくのだった。
 ドォ……ン!バリバリバリ!ドドォ…ン!!
 梟羽は立て続けに雷気を投げつけた。しかし全ての雷気は聖剣によって昇華されるのであった。
「な…ぜだ!?」
 梟羽は呆然とした。
「いくら攻撃しようと、そなたの雷気はこの剣にはきかぬ。なぜなら、そなたが雷気の媒介に使っているその玉はこの聖剣と同じものだからだ」
 その言葉に、蕾も驚きのあまり息をのんだ。
「それはどういう事だ、東風王!?」
 一瞬、全てのものを沈黙が包んだ。
「その玉は…雷仙の持ち物なのです」
「!?」
 蕾は聖剣を、梟羽は胸元の玉を見つめた。
「梟羽よ、そなたは怪魔などではない。ずっと探していた…。そなたは雷仙と風仙の血を引く聖仙なのだ」
「…!?」
「どう言うことだ、東風王!?」
 蕾は驚きのあまり、東風王に詰め寄ろうとした。
「…それは、現玉風大帝さまがその座につかれて間もない頃の事でございます…」
 東風王はゆっくりと話し始めた。

To Be continued

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2013年9月27日 (金)

明日公開!

お待たせいたしました!(え?誰も待ってないって?^^;)
時間は未定ですが、BUDの新作SS「遠雷 〜草冠の花の皇子〜」がいよいよ明日、公開の運びと相成りました〜。
やっとこさの公開です。はぁ〜、しんどかったー(^^;)ゞ

今しばらく、しばらくお待ち下さいませ〜。

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2013年9月26日 (木)

白い

白い
一昨年は咲いてたのに、去年は咲いてなかった近所の白い曼珠沙華。今年、今頃になって咲いてたので写真撮りました〜(^-^)v

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2013年9月25日 (水)

近日公開!

はぁ〜(´Д`υ)何とか公開出来るまでの目処がたちました〜。
「憂春桜」を公開してから何ヵ月だぁ!?春のお話しが、すっかり秋になっちゃいましたよ〜。
大した内容でもないのに、今回はなんか苦労しました。でも頑張りました!少しでも皆様に気に入って頂けたなら幸いでございます〜。
で、「憂春桜」は皇女ものとして書きましたが、今回はその続きであるにもかかわらず、急遽、皇子ものに変更いたしました。その点から言えば、少々不自然なのですが、違和感なく読んで頂けるものと思っております。
①②③と3つに分けての公開となります。
最後の追い込みに入りますので、今しばらくお待ち頂けたらと思います〜<(__)>

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2013年9月19日 (木)

気がつけば…

気がつけば…
…あちこちに真っ赤な曼珠沙華が咲いていました。
秋…ですねぇ(^^)
近くの河川敷には白い曼珠沙華も沢山咲いています。写真撮れなくてすいません。
そう言えば…今夜は十五夜ですね。なので写真は月見団子です。
月見団子と言えば、一般的には白い丸いやつですが、関西のは楕円に長細い団子に、帯の様にあんこがのってます。美味しいですよ(^-^)
月より団子…てか?

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2013年9月14日 (土)

Ⅱの7

本日「やじきた」の新刊をゲットしました。
今回はサッカーですか…。私、サッカーはほとんど興味ない(稲妻11は面白い!)んですが、愛しのキタさんが活躍してくれてたら嬉しいな、とか思ってます(〃∇〃)まだ1/3程しか読んでないので、その辺はどうかわかんないですが(^^;
そう言えば冒頭に『雷の神はすなわち剣の神である』と書いてあったのを見て、へぇ〜!と思ったと同時に、今書いてるBUDのSSの一部設定にちょっとだけ通ずるところがあって、ちょっと嬉しくなってしまいました。
でも…今月に入ってから全然手ぇつけてないわ…(-_-;)

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2013年9月 1日 (日)

追い込み失敗

あ〓、本当ならもう出来上がっていて後は手直しだけ、な状態のはずが…う〜(--;)出来てないよ〓!
春のお話しなのに、夏どころか秋になっちゃうよ〓!!

いっそのこと、もう一月遅らせるか!?うーん…悩むところだ(-_-;)

実は、前半、とある方に読んでもらったんですが、『皇女より皇子の方が良い』と言うご意見を頂きまして…。書いてる本人も書きながらそう思うところがあったのですが、「憂春桜」(皇女もの)の続き…って事もあって皇女もので書いているわけで…。遅れついでに皇子ものに書き直しちゃおうかしら!?そうすると「憂春桜」からの繋がりが少し不自然になってしまうのですが、それはきちんと収納する時にそちらの方も皇子ものに修正する、って事で解決するかな?

と、とにかく、出来るだけ早く仕上げるよう、ガンバリまっす!(;^_^A

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