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華恭苑学園戦記 エピソード1

華恭苑学園戦記 エピソード1

「それでは、今年の文化祭での生徒会本部の出し物は、伝説の『学園キング&クイーンコンテスト』の復活、ということでよろしいですね」
 議長である生徒会長の東雲がトン、とペンで机を叩いた。すると役員一同は賛成の意を一斉の拍手で応えるのだった。

 華恭苑学園高等部生徒会本部、通称「神扇山」。そこで生徒会長を務める3年生の東雲は教師や生徒達からの信望も厚く、また容姿端麗・文武両道・成績優秀の三拍子揃った学園始まって以来の逸材と謳われた生徒であった。

 役員会の終了後、個別に質問に訪れる役員達にテキパキと指示を与える姿をうっとりと眺めながら、副会長の曄が、書記の一人である後輩の萌葱と何やら言葉を交わしていた。
「あ~ん、あの伝説のコンテストが復活するなんて、曄、どうしましょぉ~」
「ここはやはり裏に手を回してでも票を集めなければなりませんわ!」
「萌ちゃん、手伝ってくださるぅ?」
「もちろんですわ、曄先輩!」
 二人は互いに気合いを入れあった。

 次の日から男女問わず、票の獲得戦が始まった。友人はもとより、廊下で出会う人全てに自分をアピールし、さらに一緒に投票して欲しい異性を主張する。この投票は男女一組を一票とし、最も票の多かったカップルが学園のキング&クイーンとなる仕組みだ。

「なんだか最近やけに騒がしいな」
 教室内にも関わらず、入り口から最も遠い窓際の一番後ろの席で机に両足を放り出し、タバコを吹かしながらふんぞり返る髪を金髪に染めた青年が、そばに立つもう一人の青年に話しかけた。
「あれ、お前知らないの?今度の文化祭であの学園キング&クイーンコンテストをやるんだってさ。それでみんな自分と自分の好きな相手に投票して欲しくて走り回ってんだよ」
「学園キング&クイーンコンテスト?ばかばかしい」
 フゥーと、蕾はタバコの煙を勢いよく吐き出した。
「そうか?まあ普通のコンテストなら皆ここまで騒がないだろうけど、なんたってウチのは『伝説の』だからなぁ」
「何が伝説かは知らんが、お前は行かなくていいのか?その票集め」
「オレ?ああ、だってオレの彼女はまだ管轄外だからな」
「ああ、そうだったな」

「蕾!またこんなところでタバコなんか吸って!」
 廊下に漂うタバコの煙につられ、東雲が教室に乱入した。
「それに制服の下は白のカッターだっていつも言っているだろう!?」
 蕾のくわえていたタバコを奪うと、そんな蕾のために常にズボンのポケットに入れてある小さな携帯用の缶の灰皿を取り出すと、ねじ込んだ。本来なら喫煙器具等所持で、特別指導に入れられるところ、彼の場合はこのことがあって特別に許可、というか、生徒指導部から委託されていた。逆に蕾は、入学当時から喫煙、暴力、器物破損、深夜徘徊など、数え切れない程の問題を起こし、指導を受けていた。にもかかわらず、彼が退学にならないのは、特別な理由からだった。

「透、君もそのシャツ、なんとかならないのかい?」
 蕾はショッキングピンクのシャツを、透は血飛沫を飛ばしたようなシャツを着ていた。
「あー、うるさいヤツが来た。だいだいなんでお前がこのオレに構うのか、わからないね。今はお前もなんとか言うくだらないコンテストの票集めで忙しいのではないのか?」
「蕾、こいつにはそんな必要なんてねぇさ。ほら」
 透が軽く目配せした方を見ると、廊下の窓や教室の入り口から、溢れんばかりの女子生徒がこちらをうかがっていた。もちろん東雲目当てに集まった女子達である。彼女らは優等生の東雲と不良生徒の蕾のやりとりを瞳を輝かせながら見守っていた。
 東雲の関心が女子達に逸れると、蕾はポケットからタバコを取り出した。それを見た東雲が再び奪い取る。するとなぜかギャラリーから黄色い声が飛んできた。
「きゃー、蕾にさわったわ!」
「今、東雲さんが蕾の手を握ったわ!」
「みつめあってるわー!」
 東雲には意味不明な言葉が飛び交っていた。
 頭が痛い・・・と言わんばかりに東雲は額に手のひらを当てた。
「だけど不思議だよなぁ。お前らの性格、全くの正反対なのになんでこんなに仲がいいんだ?」
「はぁ!?」
 透の突拍子もないセリフに、思わず蕾と東雲の声がハモった。
「な、なにをばかなことを!いつオレがこいつと仲良くなったんだ!」
「それはこちらのセリフだよ。私は蕾と幼馴染みというだけでいつも彼の面倒をみさせられていたのだよ。今までいったいどれだけ大変な目に遭わされてきたと思っているんだね」
「なっ、オレがいつお前に面倒をみられたんだ!?」
 ガタンと椅子を倒して蕾が立ち上がった。
「幼稚園のころ、私が向かえに行かなければ、君は家から出てこようともしなかったじゃないか。昼寝の時間も私が隣にいないとグズッて寝ようとしないし、それに小学校の時、暴れて弁当をひっくり返したときも、私に後かたづけをさせて私の弁当を横取りして食べてたじゃないか。あと中等部に入ってからも・・・」
 べらべらとしゃべり続ける東雲の顔面に、顔を真っ赤にした蕾が真正面から張り手を見舞った。とたんにギャラリーから黄色い悲鳴があがる。
「つ、蕾・・・どこへ?もうすぐ授業が始まるよ!」
 床にしりもちを付きながら、蕾を捕まえようとする手が空しく宙を泳いだ。
「るさい!」
 蕾は透を伴い、ドスドスと教室を後にした。

 学園一の優等生と学園一の不良。まったく正反対の位置にいる二人だったが、彼らは家が隣同士ということもあって、生まれながらの幼馴染みであった。東雲の両親は大手企業の経営者で、一年のほとんどを海外で過ごしていたため、父の弟であり、華恭苑学園の古文の教師でもある叔父、五百重が、時折様子を見に訪れていた。母子家庭で育っていた蕾は、東雲の両親のいない寂しさを知ってか知らずか、東雲の家にほぼ毎日通い、お泊まりする日も少なくはなかった。反対に東雲が蕾の家に泊まることもあった。
 普段、女の子と見まごう容姿とは裏腹にきかん気で暴れん坊な蕾だったが、そんな行動のウラに隠されたさり気ない優しさに賢い東雲が気付かぬはずもなく、それからと言うもの、東雲は何かと蕾の世話を焼くようになっていた。しかしそんな自覚が全くない蕾は、やたら自分に構う東雲がうっとおしくてならなかった。
『確かに、君にはいろいろ酷い目に遭わされてきたけど、それ以上に私は君の存在に感謝しているんだよ』
 頼り、頼られていたころの小さな自分達が今でも思い出された。
『あのころの君はホントに女の子のように可愛かった。大きな瞳でじっと見つめられると、正直ドキドキしたよ。黙っていれば女の子に間違われることも多かった。そのことで近所の子供たちにからかわれると、たちまち殴り合いの喧嘩になったね。それを止めるのも私の役目の一つだった。そしてどこをどう間違えたのか、君は不良になってしまった・・・。父親の失踪が関わっているのか、と一時考えたこともあった。君の父上は君が生まれる前から失踪していたからね。だけどあんまり関係なかったみたいだね。ハハ・・・。中身はあのころと変わらず優しい君だけど、私には冷たくなった。それがちょっと悲しいよ』
 東雲は少し小首を傾げた。そんなもの思いにふける姿をギャラリー達はうっとりと見つめていた。


 チュドーーーーン!!
 それは放課後、校舎の北側の別館にある科学室から響いた。
 教室の裏側、窓の下に座り込み、隠し持っていたワンカップをちびちびやっていた蕾が自分の頭上、すぐ横のガラスが吹っ飛ぶのを見て、思わず吹き出した。
「な、なんなんだ~!?」
 立ち上がり、中の様子を窺ってみると、もうもうと立つ煙の向こうに白衣を身に纏った生徒が目を回して倒れていた。それを見た蕾が割れた窓を開け、ヒラリと中に飛び込んだ。
「おい、大丈夫か!?」
 すかさず抱き起こし、声を掛けた。
「う、う~ん・・・」
 程なくして目を覚ましたのは、生徒会本部役員でもある科学部所属の一年生、萌葱であった。
「お前はいつも曄といっしょにいる・・・」
「はっ。つ、蕾先輩!?」
 萌葱はすっかり目を覚ますと、蕾の手を放れてその場に座り直した。
「一体これは・・・」
 爆風で壊れた備品やビーカーなどの消耗品を見て、蕾が目を丸くした。
「あ、こ、これは実験をしておりまして、その、ちょっと失敗してしまったみたいで・・・」
 そんなはずはないのに、と、苦笑しながら萌葱は頭をかいた。
「怪我はないのか?」
 蕾は萌葱を立たせると、汚れた白衣をぽんぽんと払ってやった。
「あ、はい。ございませんわ。ありがとうございます」
 言いながら、蕾の言動に少し胸がキュンとなるのを感じた。

「今の音は何だー!?」
 そこへ、騒ぎを聞きつけた教師が数人現れた。
「なんだ、蕾。またお前か?」
「え・・・?ち、ちがい・・・」
 違うと言おうとした萌葱を軽く制して蕾は言った。
「ちょっとあれとこれとそれを混ぜたら、こうなっただけだ。気にするな」
 適当に指で指し示すと、シレッと言ってのけた。
「はぁ?だいたいおまえはなぁ・・・」
 偉そうな物言いの蕾に激怒した教師が小言を並べはじめた。
「そうゆうことだ」
 軽く微笑みながら、萌葱にこっそり囁くと、蕾は踵を返し、入ってきた窓からひらりと外へ出た。
「あ、待て、まだ話は終わっとらんぞー!後で生徒指導室まで来るんだぞー!!」
 教師は拳を振り上げながら蕾の背中に怒鳴り続けた。
「ふん、誰が行くか!」
 蕾は本館の方へ向かって走り去った。

「ああ、この胸のときめきはなに?もしかしてこれが恋?」
 さり気なく自分を庇い、悪者になってくれた蕾に、萌葱は瞳を輝かせ、うっとりとした。
「曄先輩のために、生徒がみな東雲さんと曄先輩に投票するよう、秘薬を研究中だったのだけど、これは、なんとしても成功させ、蕾先輩と私に投票するようし向けなくてわ!なんたって伝説がかかっているのですもの!」
 と、今度は瞳を燃やし、ガッツポーズをとる萌葱だった。


 文化祭を明日に控え、その日は午後から各学年、クラス、部局などが明日の準備に勤しんでいた。蕾はクラスの手伝いをするわけでもなく、他の模擬店の試作品の試食に回っていた。
 一通り回り終え体育館に行くと、壇上にステージが設えられていた。「学園キング&クイーンコンテスト」の大きな横断幕も用意されている。
「何が伝説なんだ?」
 訝しげに蕾は顔をしかめた。
「あら、ご存知ありませんでしたの~?」
 そこへ萌葱を連れた曄が現れた。
「蕾さまがご存知ないだなんて、信じられませんわ~」
 曄と萌葱は顔を見合わせた。
「どうゆう意味だ」
「7年前にもこのコンテストがありましたのよ。その時は藍影先輩と水波先輩が選ばれたのですわぁ~」
 曄はうっとりと瞳を輝かせながら話した。
「藍影は知っているが、それがどうしたというのだ」
「あ~ん。その後お二人がどうなったかご存知ないのですかぁ~?」
「知らん」
 きっぱりと言い切る蕾に、
「私がご説明しましょう」
 と、萌葱が一歩前に出た。
「単刀直入に申し上げます。我が学園のコンテストの伝説、それは・・・」
 今しも真実が語られようとした時、東雲の呼ぶ声がした。
「あ、蕾。こんなところにいたのかい。クラスのみんなが探していたよ。なにやら力仕事があるらしい。ほら、君って見かけによらずバカ力だろ?早く行って手伝っ・・・ぶっ!」 眉をつり上げた蕾が無言のまま東雲にラリアートを見舞い、萌葱の話しもそこそこに、そのまま走り去ってしまった。
「あぁ~ん、蕾さま~、東雲さま~ん」
 曄はのびた東雲を膝に抱え、ちょっと嬉しそうだった。

 放課後、生徒会長が保健室に運ばれたため、会長不在のまま、生徒会室の前に置かれた投票箱が回収され、即、開票作業が始まった。
 何組かの名前がほぼ確定し、その下に「正」の字が書き込まれていく。
 自分と蕾に票を入れるよう、し向ける秘薬入りの飴を完成させ、ほぼ全生徒に配った萌葱の策略もどうやら効果がなかったようで、黒板の文字に呆然としながら、萌葱のチョークを持つ手がぷるぷると震えていた。
 最後の一票を書き加え、満場一致、ダントツで一組のカップルが誕生した。新たな伝説の始まりであった。曄と萌葱はショックのあまり、後かたづけもままならず、涙のまま、さっさと帰宅してしまった。


 翌日、朝一番のイベント、生徒会主催の「学園キング&クイーンコンテスト」が始まった。全校生徒が見守る中、舞台の上には5人の男子生徒が呼ばれ、並べられた。その中に当然東雲と蕾もいた。東雲は「当然」とは思いつつ、複雑な面もちで立っていた。蕾はというと、なぜ自分がここに立っているのか、わけがわからないようだった。

「ここに立つのは嬉しいのだが、伝説なだけにちょっとまずいなぁ。それに段取りが少し違うよ。本当なら二人一緒に名前を呼ばれるはずなのに、どうして男子だけ先に舞台に上げるんだ?」
 隣で困った様子の東雲に気付き、
「さっきから何をそんなに悩んでいるのだ」
 と蕾が小声で話しかけた。
「だって、もしここで私の相手に曄さんが選ばれでもしたら・・・」
普段女子には紳士的な東雲も、所構わず迫り来る浮世離れしたお嬢様の彼女だけは大の苦手のようであった。
「別にいいではないか。曄はお前のことが好きなのだろう?」
 すでに自分が選ばれることを前提に話している東雲には全く気付かず、蕾は普通に受け答えしていた。
「彼女はいいだろうけど、私が困るのだよ」
「何が困るのだ。たかが学園祭のコンテストではないか」
「たかがって・・・。君、まさかホントに知らないの?このコンテストの伝説を」
 東雲は心底驚いているようだった。そして知っていれば大人しくここに立っているような蕾ではなかった、と今更ながらに気付くのだった。
「それをさっき曄に聞いていたところなんだ。何なんだ、その伝説っていうのは」
「だからね・・・」
 東雲は蕾の耳元に手を当て、ごにょごにょと囁いた。
「はっ。ばかばかしい!このコンテストで選ばれると必ず結ばれるだと?実にくだらん!」
「だけど過去、このコンテストで選ばれた二人がすべてまとまっているんだよ。前回のコンテストで藍影先輩と水波先輩が選ばれて卒業後に結婚しているんだ」
「そんなの偶然だ」
「それに最も伝説なのが第1回目で君の・・・」
 と言いかけたところで、大音響が鳴り響いた。
「それでは発表します。すでにキング候補には壇上に上がっていただいております。さぁ、復活第一号、伝説の華恭苑学園、学園キング&クイーンは・・・」
 ドラムロールが響き、カラフルな照明が壇上や客席を走り回った。
「・・・この二人です!!」
 ポン、と照明が一点を照らし出した。とたんに女子の黄色い悲鳴が上がった。しかし当の本人達は何が起こったのかと唖然としている。
「なに?」
「ど、とうゆうことだ!?」
 東雲と蕾は互いに顔を見合わせた。そう、スポットライトは壇上に並ぶ東雲と蕾を照らし出したのだ。
「ふ、ふざけるなー!なんでこいつとオレが選ばれるんだー!!」
「それはこっちのセリフだよ!」
 舞台の袖で、曄と萌葱が手を取り合って涙に暮れていた。 反対の袖では、学園一のミーハー女子事務員が二人、これまた涙を流しながら、こちらは手を取り合って喜びあっていた。
「一華さんに鈴原さん、そろそろ仕事に戻ろうねぇ~」
 背後から現れた事務長が、嫌がる二人の襟首を掴み、引きずるように事務室へと連れ帰った。
「いや~ん、最後まで見るー」
「東雲くーん、蕾くーん!」
 制服を調達し、生徒の海に紛れ込むべきだったと、二人は後悔した。

 頭上の大きなくす玉が割れ、紙吹雪が舞う中「おめでとう!」の垂れ幕がなびいた。
 進行役の生徒会役員が二人に花束を渡し、蕾の頭にティアラをのせた。それを見て再び黄色い声が上がった。
「なんなんだー、これはーっ!!」
 全校生徒の過半数以上をしめる、約2名を除いた女子生徒すべての票を獲得した二人は自分達の意志とは裏腹に激烈に祝福された。

 かくして華恭苑学園のキング&クイーンコンテストは無事幕を下ろした。
 伝説によると、ここで選ばれたカップルはその後、必ず結ばれるという。その第一号が、実は蕾の両親、つまりこの学園の現理事長で当時深窓の令嬢だった麗と、学園一の眉目秀麗の不良生徒、都流だった。入学当時は今の東雲と蕾のように反発しあっていたのだが、いつのころからか、都流が麗に猛烈にアタックをかけはじめ、このコンテストで選ばれたのをきっかけに大恋愛へと発展させ、卒業直後、見事にゴールインしたと言うことだった。それ以来、選ばれたカップルがすべてまとまり、100%の伝説を生み出したのだ。しかし、その事実を当事者の息子である蕾だけが知らなかったのはお笑いであった。もちろん、知っていたらこんなところに大人しく立っていたりはしなかっただろう。

「ふざけるなーーーっ!!」
 文化祭終了後、校庭で夕日に向かって叫んでみた。しかしそれは空しく響き、消えていくだけだった。
 隣で東雲が肩を落として立っている。しかしその顔は、なぜかにこやかだった。
「なにを笑っている」
 気に入らない、とばかりに蕾が睨みをきかせた。
「え?笑ってないよ?」
 東雲は口元を引きつらせた。
「嬉しそうに笑っていたではないか!」
「笑ってないって」
「いや、笑ってた!だいたいお前があんな企画を・・・・・!!」
 言いながら、蕾が東雲に掴みかかった。

 夕日は、はしゃぐ(?)二人の影を長々と校庭に踊らせていた。


 その後、二人がどうなったかは、もう一つの「伝説」となって今後、語り継がれることとなる。
  


おわり