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配達された一通の手紙

配達された一通の手紙

 人跡未踏のジャングル…いやいや、美しい湖畔のリゾート地にある一軒の別荘。玄関を出て十分ほど歩けば湖の岸辺、そして別荘の後ろはフィールドアスレチックもできる小さな森。庭は広く、バーベキューができるスペースがあり、なおかつプールまでついていた。そう、ここはいわずと知れたナスティ・柳生の別荘なのであった。そしてここには三日前、「避暑」という名目で集まった五人の鎧戦士達の姿もあった。

 朝早くから大量の洗濯物を庭先に干しながら、ナスティが叫んだ。
「ちょっとーいつまでも寝てんじゃないわよー!いい加減起きてごはんすませちゃってよー!!」
視線を二階の一室に向けた。引かれたままのカーテン。寝ているのはもちろん(?)当麻であった。      
キッチンでは伸が後片づけを始めている。まだテーブルに陣取っている秀はコーヒーを、征士は番茶をすすっていた。                      
広げた新聞の影から、秀がバターとイチゴジャムのついた当麻のトーストに手をのばそうとして、危うく征士にフォークで手を突き刺されそうになった。
「それにしても遼のやつ、遅いではないか。やはり遼に当麻を起こさせるのは無理だったのか…」
 一日目、秀が当麻を起こしにいったところ、三十分後に壁がふっとび、二日目、征士が竹刀を片手に起こしにいったところ、十分後、柳生邸に狂気の悲鳴が轟いた。そして三日目の今日、遼が自ら大役(?)をかって出たのであった。時計は十時を少しばかり回っていた。
ガチャンー!
征士のセリフに手から皿を滑らせ、思い出したかのように伸が顔を上げた。
「りょ…遼…」
泡だらけの手をわなわなと震わせ、手も洗わず駆け出した。勢い余って伸の手の泡がしぶきと一緒に当麻の朝食の上に降り注ぎかけた。が、流石(?)秀、とっさに手にしていた新聞をさっと広げ、それを未然にふせいだのであった。その後どさくさに紛れ、当麻の朝食がどうなったかはわかりきっていることだと思う。
「りょおーっ!」
叫びながら伸は当麻の部屋のドアを開けた。右手の壁は今だ修復できず、無残にもポッカリと口を開けたままである。
当麻の部屋に遼の姿はなかった。ゼエハア肩で息をしながら目を光らせた。
「そこだーっ!!」
当麻のシーツをひっぺがすと、当麻の腕に取り込まれもがいている遼の姿があった。伸の形相を見て遼は冷や汗を流した。それでも当麻は眠っている。
「伸、たのむからおちついてくれ!」
遼はがんじがらめだった片手をようやく自由にし、伸を制止しようとした。当麻の腕は遼の腕と上半身をはがいじめにし、下半身は足でカニバサミをするようにねじふせている。遼が体を動かそうものなら、さらにぐいぐいと自分の方にと引き寄せた。しまいには遼の顔は当麻の胸にうずくまり、ただひとつ自由になっている右手だけがバタついていた。
パッリーン!!
当麻の部屋の窓ガラスが割れ、そこから大量の水が怒濤のように流れ出た。その時、鼻歌まじりに最後の一枚の××のぱんつを干し終えてホッと一息ついたナスティは、ナイアガラの滝のごとく怒濤のシャワーを洗濯物ごと浴び、狂気乱舞したのであった。

 シャワーで冷えた体を暖め、全員が顔を合わせたのは十一時三十分を回った頃だった。すきっ腹をかかえ当麻が虚しくコーヒーだけをすすっていると、玄関のチャイムが鳴った。ペタペタとスリッパを鳴らしながらナスティが応対に出た。
「ぎゃーーっ!!」
間髪入れずに悲鳴にならない悲鳴が柳生邸をつっ走った。五人が慌てて玄関にかけ集まると、そこには腰を抜かしたナスティと、ズタボロになって力尽きた朱天の姿があった。
「一体何があったというのだ…」
朱天の手には一通の封書が握りしめられていた。中身は今晩妖邪界で行われるという、四魔将主催の盆踊り大会の招待状であった。で、この招待状、四魔将の誰が届けるかの問題でくじびきの結果朱天に決まったわけだが、他の魔将達にしてみれば納得いかないわけで、その思いがつい行動に出てしまい、それでも朱天は自力で柳生邸に到着したのであった。
「まあ、盆踊り大会?」
「おおっ!夜店の割引き券も入っているぞ!」
「本とか!?俺によこせ、俺に!」
招待状を広げ、ワイワイキャーキャー騒ぐ六人、既に朱天の姿は彼等の視界には入っていなかった。哀れ朱天、結局その晩の盆踊り大会には参加できず、一人寂しくベットの上で嗚咽していたのであった。これが三魔将が密に計画したものかどうかは定かではなかった。

 突然だがここは妖邪界である。招待状を受け取ってから約一時間、揃いの浴衣とゲタを調達し、純を呼び、七人は「ようこそ煩悩京へ」のアーケードが掲げられた盆踊り会場の入口に立っていた。アーケードの向う側は円形状に数々の夜店が並び、頭上には無数のちょうちんが交差し、中央には大きな櫓が組まれていた。
「んーいい匂いだ」
秀がクンクンと鼻をならした。タコヤキ、焼きトウモロコシ、イカヤキ…ありとあらゆる夜店が集まったかのようだった。もちろん店を営んでいるのは地霊衆の面々であった。
 わいわいがやがやとにぎわう夜店に視線を注ぎながら、彼等はアーケードをくぐった。
「こぉーりぃーーーん!!」
円の中心にある大櫓から一人の男が叫びながら駆けてきた。悪奴弥守であった。
「会いたかったぞー!」
と光輪の征士めがけてとびついた。そのついでに頬をスリスリもした。
「いたいではないか当麻、いい加減離さんか」
征士は当麻の腕の中でもがいた。征士は当麻によって魔の手を逃れていた。悪奴弥守はそれとも気付かず秀に抱きつき螺呪羅に頭をどつかれていた。

「よう来られました。今宵は我等妖邪界の盆踊り大会、ぞんぶんに楽しんでいって下され」
浴衣姿も可愛い迦遊羅が前に進み出て、形どうりの挨拶をした。
「まーまーかたい挨拶はぬきにしてぇ“腹が減っては盆踊りはできぬ”つてね。早く夜店まわろーぜ!」
食い意地だけはっている秀が皆を急かした。そして迦遊羅達は、まだ残っている櫓の準備へと戻って行った。
 「まずは何から食おうかなーっと」
手のひらを目頭にあてながら、辺りを見回す秀。
「手近な所でタコヤキなどどうだ?」
自分のすぐ横にあるタコヤキの屋台を見て征士が提案した。
「俺はソースよりしょーゆの方がいいんだけどな」
横で片手を顎にあてながらうなる当麻。
「当麻って大阪人だよなぁー」
と、遼が指をさす。
「お兄さんお兄さん、うちは明石焼きだってあるんだよーん」
と、ちゃめっ気(?)たっぷりに地霊衆Aが手招きしながら言った。
「じゃ、僕は普通のソースでいい」
と、伸。
「私は明石焼きを一度食べてみたかったので、それにしよう」
それぞれが好みのタコヤキを片手に歩きだした。
「あ、お姉ちゃん、金魚すくいだ!」
しばらく行くと、純がナスティの袖を引っ張った。
「私純についてるからあなた達適当に回っててくれる?」
純に引っ張られ、足が金魚すくいの方に引き寄せられながら、ナスティが言った。
「うん、そうするよ」
遼が代表して言った。秀はいつの間にか焼きトウモロコシをほおばり、当麻はイカヤキをほおばっていた。
「おっちゃん、ヤキソバ大盛りね!」
叫んだのはやはり秀であった。
「あいよっ!」
ヤキソバ屋の地霊衆Bも調子に乗って答える。
 ちびまる子ちゃんのお面をつけた征士がリンゴアメを片手に、遼がワタアメに半分顔ごと突っ込みながら、伸がお好み焼きをほおばりながら、当麻の手元に注目していた。
「てやっ!」
当麻の投げた輪は、見事最後の景品のマイ○ルドセブンを獲得した。
「すべては計算ずくなのさ」
不可解な笑みを浮かべて当麻は胸を反り返らせた。
と、そこへ純とナスティが現れた。手には抱えきれないほどの金魚の袋とヨーヨー、そして当てものの景品を持っていた。
「純ってばすごいのよー。当てものやらせたらみんな一等か二等なの。この大っきなゴマちゃんも純に当ててもらったのよ*」
ナスティは背中に背負った特大ゴマちゃんのぬいぐるみを皆に見せた。
普通なら商売上がったりである。
いーないーなと皆がさわいでいると、マイク放送が入った。店を担当していない地霊衆達が、ゾロゾロと櫓の回りに集まり出した。いよいよ盆踊りが始まるようだ。
 櫓の上には、鳴物を持った三魔将と音頭取りの迦遊羅がいた。
そして東京音頭の音楽が流れ出した時であった。
「ちょっと待ったー!」
当麻が叫んだ。この時六人の背筋に悪寒が走った。
「俺が歌う!」
いきなり櫓によじ登り、迦遊羅からマイクを奪った。
「何をなさる!?天空殿!!」     
迦遊羅はマイクを取り戻そうとした。
「東京音頭なんか邪道や!盆踊りは昔から河内音頭に決まってるんや!」
櫓の上で一人叫ぶ当麻。額からかすかに脂汗を流している。
「単なる偏見じゃないの 」
呆れてナスティがぼそっと言った。
「あいつ、河内音頭しか知らねぇんだぜきっと」
と秀。
いかにもそうだった。
そして当麻が深く息を吸い込んだ。
「やばい!三魔将、当麻を押さえ付けてくれ!!」
伸が当麻を指差して叫んだ。
三魔将は一斉に当麻に飛びかかった。結末が見えているからである。
 いつの間にか、地霊衆達も危険を察知したのか、ムンクの叫びのような表情をしながら櫓の回りを飛び始めた。
「えんやこーらせーぇ、どっこーいせぇー!!」
当麻は三魔将の攻撃をかわすと、もう一度大きく息を吸い込み、声と一緒にはきだした。
とたんに空を飛んでいた地霊衆達がバタバタと音をたてて落ちた。           
「やーめーてーくーれー!」
苦虫を噛んだような顔をしながら彼等はのたうちまわった。が、当麻は一人河内音頭を熱唱するのだった。
 東京音頭を知らない焦りから歌い出したものだったが、歌い出すとこれまた酔いしれるタイプだったりしたのだ。
 すでに当麻の耳には彼等の声は聞こえていず、自分の歌声のみしか聞こえていなかった。
 河内音頭は延々と続く。そう、妖邪界の夜が明けるまで…。
 その頃、盆踊り大会に参加できず、柳生邸の一室にベットを借りて、一晩中当麻のクロスワードを解いていた朱天は、もしかしたら一番幸せだったのかもしれない。


おわり